フィリップ・リーヴ『掠奪都市の黄金』(安野 玲訳、創元SF文庫)

掠奪都市の黄金 (創元SF文庫)

掠奪都市の黄金 (創元SF文庫)

 下に続いて、『掠奪都市の黄金』を読了。
 前巻のラストから数年、トムとヘスターの二人はアナ・ファンの残した<ジェニー・ハニーヴァ>号を操って飛行船乗りとして各地を旅していた。しかし、たまたま寄港した空中都市エア・ヘイブンで、ペニーロイヤルと名乗る怪しげな人物を乗せたことから、彼らの危険ながらも満ちたりた日々は終わりをつげる。反移動都市同盟の戦闘飛行船に襲われて氷の平原をさまよった後、移動都市アンカレッジに拾われたは良いものの、アンカレッジの市長である辺境伯フレイア・ラスムッセンがトムのことを気に入ったものだから当然へスターは面白くない。鈍いトムはそんなヘスターの気持ちに気づかずに辺境伯との歴史談義に夢中になってしまう。そして、ある吹雪の日、決定的な瞬間を目撃してしまったへスターはアンカレッジを一人飛び出してしまう。行き先は掠奪都市アルハンゲリスク。アンカレッジの情報を売る引き換えに、自分にトムを助け出させて欲しいと願うために。
 謎の大地へと向かうアンカレッジとそこにに住む気の良い人々、胡散臭い改変歴史家ペニーロイヤル、謎の集団ロストボーイとその頭領、反移動都市同盟の司令官、と登場人物がほんとうに生き生きと書かれていて、それだけに彼らを襲う悲劇が心を打つし、喜び、悲しみといったものが強く伝わって来ます。読み手は第三者視点で「そんなことをしなければ良いのに」と思うと同時に、そうせざるを得ない登場人物達の気持ちも良く分かる。その結果が悪いほうに出れば「ああっやっぱり」と思うし、良い方に出れば素直に嬉しい。そんな風に登場人物と共に一喜一憂できる良質のジュブナイルでした。第二部に入ってからの怒涛の展開は本当に面白かった。
 色々回収されて無い伏線を残しながらも、この本の最後で主人公二人にとっては非常に良い結末を迎えているので、これで終わりなのかと思ったのですが、訳者あとがきによれば、このシリーズは全4巻で、後2冊残っているそうです。次の巻では、トムとヘスターはいなくならないものの、主人公は変るようで、続刊が待ち遠しいです。英語版も買えるようだから、余裕があったら買おうかな。
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