グレアム・ジョイス『鎮魂歌』(ハヤカワ文庫FT)

 引っ越す前に積ん読を減らそう計画実行中。妻に先立たれ、傷心の中大学時代の友人を頼ってエルサレムに旅をする男の物語。彼の内面に潜む問題と所謂死海文書に語られるキリストの物語が重なりあい、次第に世界がずれていく。宗教とマリファナとアルコール、そして独特の熱気に包まれたエルサレムという都市にあてられて次第に壊れていく主人公。中東の乾いた都市の話であるはずなのに、物語全体にどろっとした濃厚な空気が感じられます。面白い!と誰もが口ををそろえて言う類の小説じゃないと思うんですが、個人的には良かったです。