マイケル・ムアコック『グローリアーナ』(大瀧啓祐訳、創元推理文庫)

グローリアーナ (創元推理文庫)

グローリアーナ (創元推理文庫)

 この作品は、架空の大英帝国アルビオン”を舞台にした歴史ファンタジィ。暴虐な王の死後、彼の娘であった女王グロリアーナが統治するこの国は、彼女の意思によって「殺人」「戦争」が排除され、「王の恐怖」ではなくて「女王の慈愛」によって統治されるという理想が体現されている。
 しかし、彼女自身は女王としての重荷を一人背負い、日々満たされぬ心と身体を抱えてつらい日々を送っており、そのことは彼女の宮廷に集う貴族達にとっても頭の痛い問題であった。一方で、現実の政治は理想だけでは動かず、女王の筆頭顧問官にして大法官たるモントファルコンは国の障害になりそうな人/事件を秘密裏に葬りさっていた。しかし、大国間の軋轢が激しさを増す中、隠された多くのひずみ、矛盾が宮廷に暗い影を落とし始める……
 読み終わった後、長い劇を見終わったかのような疲れと充実感を感じた作品だった。ところどころにはさまれる、宮廷劇作家による詩がその印象を強めているように思う。地の文にも台詞回しにも独特のリズム(朗読劇というのはこんな感じなんだろうか)があって、少々とっつき憎いところもあるとは思うが、一度入り込んでしまうと一気に読めてしまう。最初の方で描かれる宮廷がすばらしいだけに、どんどんと酷くなっていく様はある種暗い喜びが味わえるが、最後の最後で大どんでん返しがあって大団円という流れになっているので、安心して読める。これは物語の定型とはいえ巧いと思った。時代劇やイギリスが好きな人にはお勧めの本。